はじめに
「パワハラはコンプライアンス違反なのか」「上司のどんな言動からが問題になるのか」。経営者や人事担当者、部下を持つ管理職の方から、こうした質問を受けることが増えています。
ハラスメントとコンプライアンスは、別々の言葉として語られることが多いものの、実際には深くつながっています。パワハラやセクハラは、それ自体が法律や就業規則に反する行為になり得ます。また、ハラスメントを放置した会社は、コンプライアンス上の責任を問われることがあります。
この記事では、次の内容を順に整理します。
- コンプライアンスとハラスメントの関係
- パワハラ・セクハラ・モラハラが、それぞれどんなコンプライアンス違反になるのか
- 上司の言動が「指導」から「違反」に変わる線引き
- 会社が負う責任と、経営への影響
- 会社が取るべき対策
実際に起きた事例を詳しく知りたい方は、従業員のコンプライアンス違反と上司のハラスメント事例もあわせてご覧ください。
コンプライアンスとハラスメントの関係
コンプライアンスは「法令遵守」と訳されることが多い言葉です。ただ、企業の実務では、法令だけでなく、就業規則などの社内規程や、社会から求められる倫理までを含めて考えるのが一般的です。
ハラスメントは、この3つのどの層にも関わります。
| コンプライアンスの範囲 | 主な中身 | ハラスメントとの関係 |
|---|---|---|
| 法令 | 労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、民法、刑法など | 会社にはハラスメントを防ぐための措置義務があります。言動の内容によっては、不法行為や犯罪に当たることもあります |
| 社内規程 | 就業規則、ハラスメント防止規程、行動規範 | 多くの会社がハラスメントを禁止し、懲戒処分の対象と定めています |
| 社会規範・企業倫理 | 取引先や求職者、社会からの信頼 | 法律に定義のないモラハラも、評判や採用に影響します |
このように、ハラスメントは「コンプライアンス違反の一種」として扱うのが実態に合っています。社内にコンプライアンス委員会を置いている会社でも、パワハラの相談や通報を委員会の対象に含めることがよくあります。
「個人の問題」では済まない理由
ハラスメントは、行為者と被害者のあいだの問題だと受け止められがちです。しかし法律は、会社(事業主)に対して、方針の周知、相談体制の整備、事後の迅速で適切な対応などを求めています。このため、社内でハラスメントが起きたときには、「会社として何をしていたか」が問われます。
厚生労働省の集計では、令和6年度に全国の労働局などに寄せられた「いじめ・嫌がらせ」の相談は54,987件でした。民事上の個別労働紛争の相談のなかで、13年連続で最多となっています。職場の人間関係をめぐるトラブルは、どの会社にも起こり得る身近な問題です。
パワハラ・セクハラ・モラハラはどんなコンプライアンス違反になるか
3つのハラスメントは、法律上の位置づけがそれぞれ異なります。まず全体を表で確かめます。
| 種類 | 法律上の定義 | 主な根拠 | 会社の義務 |
|---|---|---|---|
| パワハラ | あり | 労働施策総合推進法 | 防止のための措置義務(中小企業も2022年4月から対象) |
| セクハラ | あり | 男女雇用機会均等法 | 防止のための措置義務 |
| モラハラ | なし | ― | 内容によってはパワハラなどとして扱われます |
パワハラ:3つの要素をすべて満たすと該当します
厚生労働省は、職場のパワーハラスメントを次の3つの要素をすべて満たすものとしています。
- 優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されるものであること
「優越的な関係」は上司から部下への言動に限りません。専門知識を持つ部下や、集団での言動も含まれます。一方で、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指示や指導は、パワハラには当たりません。
指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、代表的な言動として「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6つが挙げられています。
セクハラ:相手の意に反する性的な言動
職場のセクシュアルハラスメントは、職場で行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることをいいます。
ここでいう「職場」には、出張先や移動中の社用車、実質的に業務の延長といえる宴席も含まれ得ます。また、異性間に限らず、同性間の言動も対象になります。本人にそのつもりがなくても、容姿への言及や交際相手の有無を尋ねることが、相手には性的な言動と受け取られることがあります。
モラハラ:法律に定義がなくても処分の対象になり得ます
モラハラ(モラルハラスメント)は、無視や陰口、ため息、周囲との目配せなど、言葉や態度で相手を精神的に追い詰める行為を指す言葉です。法律上の定義はありません。
ただし、法律に定義がないから問題にならない、ということはありません。特定の部下だけを会議に呼ばない、質問に応じないといった行為は、「人間関係からの切り離し」や「精神的な攻撃」としてパワハラに当たり得ます。就業規則で「職場の秩序を乱す行為」を禁止していれば、懲戒処分の対象にもなります。
上司の言動はどこからコンプライアンス違反になるのか
上司の言動が問題になるかどうかは、「何を伝えたか」よりも「どう伝えたか」で分かれることが多くあります。同じ指導でも、目的、頻度、言い方、周りに人がいたかどうかによって、評価が変わります。
ここでは、管理職が迷いやすい場面を、問題になりやすい対応と望ましい対応に分けて整理します。
| 場面 | 問題になりやすい対応 | 望ましい対応 |
|---|---|---|
| 部下が締切を何度も守らない | 大勢の前で叱る、人格を否定する言葉を使う | 原因を聴き、改善点と期限を書面で示して指導する |
| 部下に「パワハラでは」と言われた | 即座に反論する、「評価に響く」と伝える | どの点がつらいのかを聴き、伝え方を振り返る |
| 上位者から「あの社員には仕事を回すな」と指示された | 指示どおり、目立たないように仕事を減らす | 指示には従わず、社内の相談窓口や人事に相談する |
| 部下をほめて雰囲気をよくしたい | 服装や髪型、容姿をほめる | 仕事の進め方や成果など、業務上の行動を具体的にほめる |
| 特定の部下とのやり取りがおっくう | その部下の報告だけ、画面を見たまま返事をする | 自分の態度を振り返り、質問しやすい連絡方法を本人と決める |
表の左列は、どれも本人に悪意がないまま起こり得るものです。上司の言動に関するコンプライアンス違反の多くは、「自分は正しいことをしている」という思い込みのもとで起きます。
「一度だけ」でも問題になることがあります
パワハラは繰り返しの言動だけが対象だと思われがちですが、そうとは限りません。言葉の内容や伝えた場面、相手への影響によっては、一度の発言でも措置の検討が必要になります。反省しているかどうかだけで終わらせず、内容・回数・影響を踏まえて判断することが大切です。
パワハラはSNSで拡散する時代です
スマートフォンでの録音や撮影が当たり前になり、上司の暴言や威圧的な指導が、音声や動画でSNSに投稿されることもあります。社内で相談できずにいた人が、外部に訴える手段としてSNSを選ぶことも考えられます。
いったん拡散すると、会社が事実を確かめる前に企業名が広く知られ、取引先や求職者の目にも触れます。社内の相談窓口が機能していることは、こうした事態を防ぐうえでも大切です。
部下から相談を受けたときの上司の言動も問われます
上司の言動が問題になるのは、自分が行為者になる場面だけではありません。部下からハラスメントの相談を受けたときの対応も、会社の措置の一部として見られます。
たとえば、次のような対応は、相談した部下をさらに追い詰めることになりかねません。
- 忙しいという理由で、立ち話で要点だけ聞いて終える
- 「相手も悪気はないはずだ」と、相談者をなだめて終わらせる
- すぐに行為者を呼び、三人で話し合う場を設ける
- 相談したことを、本人の了解なく周囲に話す
相談を受けたら、周りに聞かれない場所で十分な時間を取って話を聴きます。その場で時間が取れないときは、話を打ち切るのではなく、近い日時をその場で約束します。そのうえで、本人の意向を確かめながら、社内の相談窓口や人事と連携して進めることが大切です。
また、上司が相談者を不利に扱うことも許されません。相談したことを理由に評価を下げたり、仕事を外したりすることは、法律で禁止されている不利益な取扱いに当たり得ます。
会社が負う責任と経営への影響
ハラスメントが起きたとき、責任を問われるのは行為者だけではありません。会社にも、法律上の責任と経営上の影響の両方が及びます。
法律上の責任
| 責任の種類 | 誰が負うか | 内容 |
|---|---|---|
| 不法行為責任(民法709条) | 行為者 | 被害者から慰謝料などを請求されることがあります |
| 使用者責任(民法715条) | 会社 | 従業員が事業の執行について他人に与えた損害を、会社も賠償する責任です |
| 安全配慮義務・職場環境配慮義務(労働契約法5条など) | 会社 | 従業員が安全に、働きやすい環境で働けるよう配慮する義務です |
| 懲戒処分 | 行為者 | 就業規則に基づき、譴責から減給、降格、出勤停止などを受けることがあります |
日本で初めてのセクハラ裁判とされる福岡の事件(1992年判決)でも、裁判所は上司の言動を不法行為と認めたうえで、会社の使用者責任を認めました。さらに、会社側が職場環境を調整するよう配慮する義務を怠ったとも判断しています。ハラスメントに対する会社の責任は、このころから問われてきたものです。
経営への影響
法律上の責任に加えて、経営にも次のような影響が及びます。
- 休職・離職:被害を受けた従業員だけでなく、周りで見ていた従業員が辞めることもあります。少人数の会社では、一人の欠員が業務に与える影響も大きくなります。
- 労災:令和6年度の精神障害の労災では、支給決定の原因として最も多かったのが「上司等からパワーハラスメントを受けた」でした。
- 採用と取引:口コミサイトやSNSで評判が広がると、求職者が応募をやめたり、取引先が取引を見直したりするきっかけになります。
- 管理職の負担:事実確認や配置の見直しに、管理職や人事担当者の時間が長く取られます。
会社が取るべき対策
ハラスメントをコンプライアンスの問題として扱うなら、対策も「個人の意識」に任せず、会社の仕組みとして整える必要があります。
- 方針を示す:ハラスメントを許さないこと、行為者への処分を就業規則に定め、パートや派遣社員も含めて周知します。
- 相談窓口を機能させる:窓口を設けるだけでなく、相談した人が不利益を受けないことも伝えます。
- 管理職を教育する:管理職は行為者になり得る立場であると同時に、部下の相談を受ける立場でもあります。従業員向けとは別に、「相談を受けたらどう動くか」を学ぶ場が必要です。
- 教育の記録を残す:誰がいつ何を学び、どこまで理解したかを記録しておくと、問題が起きたときに「会社として教育をしていた」ことを示す材料になります。
- 続ける:新入社員や異動者、法改正に合わせて、年に一度の研修で終わらせずに続けます。
フィラクスでできること
ハラスメント・コンプライアンス・メンタルヘルス対策クラウド「フィラクス(PHYLAX)」は、上の3と4を支える仕組みです。
- 学習とテストは「従業員向け」と「管理職向け」に分かれています。管理職向けは、場面ごとに「管理職としてどう対応するか」を問う形式です。
- すべての設問に解説が付き、法務領域は弁護士が監修しています。
- 受講日時や回答内容、理解度が自動で蓄積され、部署ごとの弱点や未受講者を管理画面で確認できます。
この記事で紹介した線引きは、フィラクスのトップページにある「管理職向け判断力チェック」でも試していただけます。パワハラ・セクハラ・モラハラの各テーマを、5問ずつ解けます。
よくある質問
Q. パワハラはコンプライアンス違反に当たりますか?
当たり得ます。パワハラは労働施策総合推進法で定義されており、会社には防止のための措置義務があります。また、多くの会社が就業規則でハラスメントを禁止しています。
Q. モラハラは法律に定義がないので、処分されないのでは?
いいえ。無視や仕事を与えないといった行為は、内容によってはパワハラに当たります。就業規則に基づいて処分の対象になることもあります。
Q. 厳しい指導は、すべてパワハラになりますか?
いいえ。客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導は、パワハラには当たりません。ただし、人格を否定する言葉や、大勢の前での叱責は、範囲を超えたものと評価されやすくなります。
Q. コンプライアンス委員会でパワハラを扱ってもよいですか?
扱う会社は多くあります。ただし、相談者のプライバシーを守るため、委員会で共有する情報の範囲は必要な分に限ってください。
Q. 研修をすれば、会社の責任はなくなりますか?
なくなるわけではありません。研修は措置のうち「周知・啓発」を支えるものです。相談窓口の運用や、問題が起きたときの対応は、会社自身が行う必要があります。
Q. 部下から上司への言動もパワハラになりますか?
なり得ます。異動してきたばかりの上司に対し、業務に詳しい部下たちが集団で指示を無視したり、会議で「素人は黙っていて」と言い続けたりする場合などです。専門知識や人数の差も、「優越的な関係」に含まれることがあります。
Q. 取引先の担当者からのセクハラにも、会社は対応が必要ですか?
必要です。自社の従業員が取引先の担当者からセクハラを受けた場合も、相談に応じ、本人の意向を確かめたうえで取引先に事実確認への協力を求めるなどの対応が求められます。反対に、自社の従業員が取引先の社員にセクハラをしたとして協力を求められたときも、これに応じるよう努めることが求められています。
まとめ
パワハラとセクハラには法律上の定義があり、会社には防止のための措置義務があります。モラハラは法律に定義がなくても、パワハラや就業規則違反として問題になります。いずれも、会社にとってはコンプライアンスの問題です。
上司の言動が問題になるかどうかは、伝え方や場面で分かれます。管理職一人ひとりがその線引きを理解し、会社がその記録を残しておくことが、対策の土台になります。
フィラクスでは、企業・法人の方を対象に3ヶ月無料トライアルを受け付けています(登録は最大20名)。トライアル終了後に、自動で有料プランへ移行することはありません。
- お電話(24時間受付):070-2233-2540
- 公式サイト:フィラクス(PHYLAX)
