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従業員のコンプライアンス違反と上司のハラスメント事例|パワハラ・セクハラ・モラハラで会社が負う責任と対策

コンプライアンス違反

はじめに

従業員がコンプライアンス違反やハラスメントを起こしたとき、責任を問われるのは本人だけではありません。会社は損害賠償を求められたり、行政処分を受けたりすることがあり、内容によっては経営者が刑事責任を問われることもあります。

この記事では、実際に起きた事例と裁判例をもとに、次の3つを整理します。

  • SNSや情報管理をめぐる従業員のコンプライアンス違反で、会社に何が起きたか
  • 上司によるパワハラ・セクハラ・モラハラが、裁判や労災認定でどう判断されたか
  • 同じことを自社で起こさないために、コンプライアンス学習をどう進めればよいか

専任の人事・法務担当者がいない中小企業の経営者や、総務・人事の担当者に向けて書いています。個別の事案の法的な判断は、弁護士にご相談ください。

コンプライアンス違反とは

コンプライアンスは「法令遵守」と訳されますが、実際には法律だけでなく、就業規則などの社内ルールや、社会から求められる倫理を守ることまでを含んでいます。コンプライアンス違反とは、このいずれかに反する行為を指します。

従業員が起こすコンプライアンス違反には、たとえば次のようなものがあります。

  • SNSへの不適切な投稿や、顧客情報・社内情報の漏えい
  • パワハラ、セクハラ、モラハラなどのハラスメント
  • 違法な長時間労働をさせることや、安全対策を怠ること
  • 品質データの改ざんや、他社の営業秘密の不正利用

従業員の違反で会社が負う責任

従業員個人の行為であっても、会社は主に次の4つの形で責任を問われます。

責任の種類主な根拠具体的な内容
民事責任使用者責任(民法715条)、安全配慮義務(労働契約法5条)被害者への損害賠償。ハラスメントでは、防止措置を怠った会社自身の義務違反として請求されます
刑事責任各法律の両罰規定、業務上過失致死傷罪など会社への罰金。内容によっては経営者や管理者個人の刑事責任
行政責任各業法、労働関係法令など業務停止命令、許認可の取消し、勧告と企業名の公表
社会的な責任法律上の根拠はなし報道やSNSでの炎上、取引停止、採用への悪影響

社会的な責任には法律上の上限がないため、罰金や賠償額より影響が大きくなることもあります。法的な責任は「会社として防ぐための取り組みをしていたか」で重さが変わるため、事前の対策とその記録が重要になります。

SNSと情報管理のコンプライアンス違反事例

従業員のコンプライアンス違反の中でも、SNSに関わるものは直近でも続いています。悪ふざけの動画だけでなく、悪意のない撮影に顧客情報が映り込んだ事案も起きています。

病院:看護師が患者のカルテ画像を投稿(2026年3月)

佐田病院の看護師が、SNSの限定公開機能を使って患者のカルテ画像を含む投稿をしました。病院は、第三者がその投稿をまとめて拡散したことで、はじめて事案を把握しています。限定公開でも、画面を撮影されれば外に出てしまうことを示す事例です。

銀行:執務室で撮った動画に顧客情報が映り込み(2026年4月)

西日本シティ銀行の行員が、営業店の執務室内で撮影した動画や画像をSNSに投稿しました。追加の調査で、個人顧客8名の情報と法人顧客19社の名称が外部から見える状態だったことが分かっています。

病院:動画に患者48名の氏名、発覚まで約15か月

武蔵野徳洲会病院では、2025年1月ごろに職員がSNSに投稿した動画に、患者48名の氏名が含まれていました。発覚したのは2026年4月です。病院は個人情報保護委員会への報告と対象者への個別の謝罪を行い、非常勤や派遣を含む全職員636名に研修を受けさせています。

飲食店:悪ふざけ動画で店舗が営業停止、従業員は書類送検

2019年には、くら寿司のアルバイトがごみ箱に捨てた魚をまな板に戻す動画を撮影し、SNSで拡散されました。会社は関わった従業員を退職処分にし、大阪府警は関係者3人を偽計業務妨害などの容疑で書類送検しています。

2024年2月には、ドミノ・ピザ尼崎店のアルバイトが営業終了後に店内で撮影した動画が拡散しました。会社は店内の生地をすべて廃棄し、同店を営業停止にしています。

これらの事例から分かること

  • 限定公開や鍵アカウントでも、スクリーンショットで拡散されることがあります。
  • 本人に悪意がなくても、撮影した場所に顧客情報があれば漏えいになります。
  • 投稿から発覚まで時間がかかり、会社が後から知ることが少なくありません。

上司のパワハラ事例

パワハラ(パワーハラスメント)は、労働施策総合推進法で、次の3つをすべて満たすものとされています。

  1. 優越的な関係を背景にした言動である
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えている
  3. 労働者の就業環境が害される

上司と部下の関係は「優越的な関係」の典型です。会社にはパワハラを防ぐ措置をとる義務があり、中小企業も2022年4月から対象になっています。厚生労働省は、パワハラの代表的な形として次の6類型を示しています。

類型上司の言動の例
身体的な攻撃殴る、物を投げつける
精神的な攻撃人格を否定する罵倒、他の社員の前での長時間の叱責
人間関係からの切り離し無視する、別室に隔離する
過大な要求明らかにできない量の仕事を押しつける
過小な要求能力とかけ離れた簡単な仕事しか与えない
個の侵害私生活に過度に立ち入る

自動車メーカー:上司の暴言が原因として労災認定、会社が安全配慮義務違反を認めて和解

トヨタ自動車の男性社員(当時28歳)が、2017年10月に自ら命を絶ちました。直属の上司からは、日常的に「死んだ方がいい」などの暴言や叱責を受けていました。社員は一度休職していますが、復職後も同じ上司の近くの席に配置されていました。

労働基準監督署は2019年9月に、パワハラと自死の因果関係を認めて労災と認定しました。2021年4月には、会社が安全配慮義務に違反したことを認め、解決金を支払う内容で遺族と和解しています。休職の原因となった上司と、復職後の配置を切り離していなかった点は、他の会社にとっても確認しておきたい事情です。

電機メーカー:教育担当の上司が自殺教唆の容疑で書類送検

2019年8月、三菱電機の20代の新入社員が自ら命を絶ちました。現場に残されたメモには、教育担当だった30代の上司から自殺をうながされたという内容が書かれていたと報じられています。兵庫県警は同年11月14日、その上司を自殺教唆の容疑で書類送検しました。

会社は2020年11月、役員を含む全社員がハラスメントを行わないと書面で宣言することや、管理職に360度評価を導入することなどを再発防止策として公表しています。上司の言動が、社内の問題にとどまらず刑事事件として扱われた事例です。

上司のセクハラ事例

セクハラ(セクシュアルハラスメント)は、男女雇用機会均等法で会社に防止措置が義務づけられています。体に触る行為だけでなく、性的な話題を繰り返す、年齢や結婚についてしつこく聞くといった「言葉のセクハラ」も含まれます。上司からのセクハラは、部下が断ったり抗議したりしにくいため、表に出にくいという特徴があります。

水族館:管理職の「言葉のセクハラ」で出勤停止と降格、最高裁も有効と判断

海遊館事件(最高裁 平成27年2月26日判決)は、「セクハラ 上司」の代表的な裁判例です。管理職の男性2人が、派遣社員などの女性従業員に対し、1年以上にわたって性的な話題や、年齢・結婚・収入に関する発言を繰り返していました。体に触る行為はありません。

会社は2人をそれぞれ出勤停止30日と10日の懲戒処分にし、その後降格させました。2人は処分が重すぎるとして訴え、高裁は一度処分を無効としましたが、最高裁は処分も降格も有効と判断しています。

判決は、理由として次の点を挙げています。

  • 2人は会社のセクハラ研修を受けており、管理職として部下を指導する立場にあった。
  • 被害者が抗議しなかったことは、加害者に有利な事情として考えるべきではない。
  • 会社から事前に注意を受けていなかったことも、管理職であれば懲戒の対象になると認識すべきであり、有利には扱わない。

この判決から、会社が研修を実施していたことが、加害者への厳しい処分を支える根拠になったことが分かります。研修は、加害者が「知らなかった」と言えない状態をつくる役割も果たしています。

なお、2026年10月1日からは、就職活動中の学生などへのセクハラ(就活セクハラ)を防ぐ措置も会社の義務になっています。面接やOB・OG訪問を担当する社員も、対象に含めて考える必要があります。

上司のモラハラ事例

モラハラ(モラルハラスメント)は、言葉や態度で相手を精神的に追い込む嫌がらせを指します。法律上の用語ではありませんが、職場で上司が行う場合は、パワハラ6類型の「精神的な攻撃」や「人間関係からの切り離し」にあたることが多くあります。

暴力や大声と違い、目に見えにくいのがモラハラの特徴です。たとえば次のような言動があります。

  • 客観的な事実ではなく、人格や能力そのものを否定する言葉をかける
  • 他の社員にも見える形で、特定の部下を否定するメールやチャットを送る
  • 挨拶や報告を無視する、会議や連絡から外す

保険会社:部下を否定するメールを職場全員に送信

A保険会社上司事件(東京高裁 平成17年4月20日判決)では、上司が成績の伸びない部下に対し、「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」などと書いたメールを送りました。そのメールは本人だけでなく、同じ職場の十数名にも送られていました。

裁判所は、処理件数を上げるよう促すという目的自体は正当と認めました。そのうえで、退職を勧めるような表現や赤い大きな文字での強調、職場全体への送信は指導の範囲を超えているとして、部下の名誉感情を傷つけた不法行為を認め、慰謝料5万円の支払いを命じています。

金額は小さくても、「指導のつもり」のメール一通で責任を問われたことになります。チャットツールでの発言も、同じように記録が残ります。

会社:「あほでも分かる」などの叱責で部下が適応障害、会社の責任も認定

大裕事件(大阪地裁 平成26年4月11日判決)では、上司が他部署の担当者との打合せ中に割り込み、その前で部下を大声で怒鳴りつけたり、「あほでも分かる」「能力が劣っている」などと叱責したりしていました。

裁判所は、これらの言動が事実の指摘にとどまらず人格を否定するものだとしてパワハラにあたると判断し、部下の適応障害との因果関係を認めました。さらに、会社が出した休職命令を無効として、賃金の支払いと慰謝料の一部を命じています。上司個人だけでなく、会社の責任も認められた事例です。

一方で、同じ判決は「何時間掛かってんの」と大声で叱責した点については、適切とは言いがたいものの違法ではないとしています。仕事の進め方への指摘と、人格を否定する言葉との境界を示した点で、管理職研修でも参考になる判断です。

事例に共通する原因

ここまでの事例を並べると、業種や会社の規模が違っても、次の3つの共通点が見えてきます。

1. 本人が「問題になる」と思っていない

SNSの事例では、限定公開なら大丈夫、仲間内のふざけだから大丈夫という認識があったと考えられます。上司のパワハラやモラハラでも、「指導のつもり」だったという説明がよく見られます。海遊館事件のように、研修を受けていても自分の行動に結びついていないこともあります。

2. 周りが気づいても声を上げにくい

上司のハラスメントは、立場の弱い部下に向かいます。海遊館事件では、被害者が抗議しなかったことを加害者に有利に扱うべきではないとされました。裏を返せば、抗議できないことは珍しくないということです。

3. 会社が後から知る

病院の動画は投稿から発覚まで約15か月かかりました。2023年6月に拡散したアート引越センターの車内動画(従業員が男性を全裸で縛りつけたもの)では、会社は拡散した動画を見てはじめて事案を知ったと説明しています。問題が表に出たときには、すでに被害が大きくなっていることが少なくありません。

会社が取るべき対策とコンプライアンス学習

従業員のコンプライアンス違反や上司のハラスメントを防ぐには、「ルールを決める」「理解させる」「声を拾う」「記録を残す」の4つをそろえることが基本になります。

  1. ルールを決める:就業規則にハラスメントとSNS利用に関する禁止事項と懲戒事由を書きます。職場での撮影や、顧客情報が映る場所でのスマートフォンの扱いも具体的に決めておきます。
  2. 理解させる:研修を一度行うだけでなく、理解できているかを確かめます。上司には、部下とは別に、指導とパワハラの境界を学ぶ機会を用意します。
  3. 声を拾う:相談窓口を設け、相談した人が不利益を受けないことを周知します。相談があったときは、加害者と被害者の配置にも気を配ります。
  4. 記録を残す:いつ、誰に、何を教えたかを記録します。従業員と揉めたときや、行政から説明を求められたときに、会社が教育をしていたことを示す材料になります。

コンプライアンス学習で確かめるべきこと

コンプライアンス学習は、法律の条文を覚えることが目的ではありません。日々の場面で「これは問題になるかどうか」を判断できるようになることが目的です。そのため、次のような具体的な場面で理解を確かめる方法が向いています。

場面の例確かめるポイント
休憩中に職場で撮った写真をSNSに載せたい背景に顧客情報や社内資料が映っていないか
成績の悪い部下を全員の前で叱りたい仕事への指摘か、人格への否定になっていないか
飲み会で部下に結婚の予定を聞きたい相手が断りにくい立場で、私生活に立ち入っていないか
反論してくる部下を会議から外したい業務上の理由があるか、人間関係からの切り離しになっていないか

こうした設問に答える形で学習すると、「分かっているつもり」と実際の理解の差が数字で見えます。理解が弱い部署やテーマが分かれば、重点的に学び直すこともできます。

よくある質問

Q. 従業員がコンプライアンス違反をしたら、会社も責任を問われますか?

問われることがあります。業務に関連して他人に損害を与えた場合は使用者責任(民法715条)、ハラスメントを防ぐ措置を怠った場合は安全配慮義務違反として、会社が損害賠償を求められます。法律によっては、両罰規定で会社に罰金が科されます。

Q. 上司の厳しい指導は、すべてパワハラになりますか?

なりません。業務上必要で相当な範囲の指導はパワハラにあたりません。ただし、人格を否定する言葉や、他の社員の前での長時間の叱責、必要以上に多くの人への送信は、指導の範囲を超えると判断された裁判例があります。

Q. 体に触らなくてもセクハラになりますか?

なります。海遊館事件では、管理職による言葉だけのセクハラでも、出勤停止と降格の処分が有効とされました。性的な話題や、年齢・結婚に関する繰り返しの発言もセクハラにあたります。

Q. モラハラは法律で禁止されていますか?

「モラハラ」という言葉は法律にはありません。ただし、職場で上司が行う場合は、パワハラの「精神的な攻撃」や「人間関係からの切り離し」にあたり、会社が防止措置をとるべき対象になります。

Q. 中小企業もハラスメント対策は義務ですか?

義務です。パワハラ防止措置は2022年4月から中小企業にも適用されています。セクハラ防止措置は企業規模に関係なく義務で、カスハラと就活セクハラの防止措置も、2026年10月1日から義務になっています。

Q. コンプライアンス学習はどのくらいの頻度で行えばよいですか?

法律で頻度は決まっていません。入社時や管理職への昇格時に加えて、法改正があったときや定期的に実施し、理解度と受講の記録を残しておくと、会社が教育に取り組んできたことを説明しやすくなります。

まとめ

従業員のコンプライアンス違反や上司のパワハラ・セクハラ・モラハラは、本人の問題で終わらず、会社の責任として問われます。今回紹介した事例では、次のようなことが実際に起きています。

  • 限定公開の投稿や職場で撮った動画から、顧客や患者の情報が外に出た
  • 上司の暴言が原因で労災と認定され、会社が安全配慮義務違反を認めて和解した
  • 体に触れない言葉だけのセクハラで、管理職が出勤停止と降格になった
  • 「指導のつもり」のメールや叱責が、人格を否定するものとして責任を問われた

多くの事例には、「これくらいなら大丈夫」「指導のつもりだった」という本人の認識と、周りや社会の受け止め方とのずれが見られます。ルールを決めるだけでなく、コンプライアンス学習で理解度を確かめ、その記録を残しておくことが、従業員と会社の両方を守ることにつながります。

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  • 電話:03-6452-5323
  • メール:info@kouhei-design.jp
  • 運営:コウヘイデザイン株式会社(大阪本町・東京代官山)

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