はじめに
「一身上の都合により退職します」。退職届にこう書かれていても、それが本当の理由とは限りません。本当の理由が会社に届かないままだと、同じ理由で、また別の人が辞めていくことになります。
この記事では、経営者と人事担当者の方に向けて、調査データをもとに「本当の退職理由」を確かめたうえで、離職を防ぐためにできるハラスメント対策を説明します。
- 本当の退職理由と、会社に届かない声
- ハラスメントと離職・休職の関係
- 従業員が声を上げにくい理由と、相談しやすい職場の条件
- 経営者・人事ができる具体的な取り組み
- カスハラ・就活セクハラと採用への影響
人手不足が続く中、「採った人が辞めない職場」をつくることは、経営の大きなテーマです。その入り口として、ハラスメント対策を捉え直してみてください。
本当の退職理由と、会社に届かない声
エン・ジャパンが2024年に行った「本当の退職理由」調査では、退職時に本当の退職理由を会社に伝えなかった人が半数以上にのぼりました。そして、本当の退職理由で最も多かったのは「人間関係」でした。
この結果から分かるのは、会社が把握している退職理由と、実際の退職理由の間にはずれがあるということです。退職面談で「キャリアアップのため」と聞いていても、その裏に上司や同僚との関係があったかもしれません。
なぜ本当の理由を言わないのか
本当の理由を伝えない背景には、「辞めるのだから波風を立てたくない」「言っても変わらないと思った」といった気持ちがあると考えられます。特に人間関係が理由の場合、相手が社内に残るため、なおさら口にしにくくなります。
つまり、退職の場面で本音を聞き出そうとしても、すでに遅いことが多いのです。大切なのは、在籍しているうちに、不満や不調の兆しに気づける仕組みを持っておくことです。
「人間関係」の中にあるハラスメント
人間関係と一口に言っても、その中身はさまざまです。単に気が合わないということもあれば、パワハラやセクハラ、モラハラと呼ばれるような言動が含まれていることもあります。後者であれば、会社として対応すべきコンプライアンスの問題です。離職防止を考えるときに、ハラスメント対策を切り離して考えることはできません。
ハラスメントと離職・休職の関係
ハラスメントが職場に与える影響は、公的なデータからも読み取れます。
5人に1人がパワハラを経験
厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間にハラスメントを受けたと答えた労働者の割合は次のとおりでした。
| 種類 | 受けたことがある割合 |
|---|---|
| パワーハラスメント | 19.3% |
| 顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ) | 10.8% |
| セクシュアルハラスメント | 6.3% |
パワハラだけでも、およそ5人に1人です。従業員50人の会社であれば、全国の割合を当てはめて単純に計算すると、約10人がパワハラを経験していてもおかしくないということになります。
精神障害の労災で最も多い原因はパワハラ
厚生労働省が2025年6月に公表した令和6年度の労災補償状況では、精神障害の労災支給決定件数が1,055件と、初めて1,000件を超えました。原因となった出来事の上位は次のとおりです。
| 順位 | 出来事 | 支給決定件数 |
|---|---|---|
| 1 | 上司等からパワーハラスメントを受けた | 224件 |
| 2 | 仕事内容・仕事量の大きな変化 | 119件 |
| 3 | 顧客や取引先等から著しい迷惑行為を受けた | 108件 |
パワハラとカスハラが、どちらも上位に入っています。ハラスメントは、従業員の心身の不調を通じて、休職や退職につながることがあります。労災に至らないまでも、体調を崩して休職したり、そのまま退職したりするケースも含めれば、影響はさらに大きいと考えられます。
一人の退職がもたらすもの
従業員が一人辞めると、採用の費用や、新しい人が育つまでの時間がかかります。その間、残った従業員の負担が増え、さらに人が辞めるという悪循環に陥ることもあります。経営者にとって、ハラスメント対策は法律への対応であると同時に、人材を守るための取り組みでもあります。
さらに、ハラスメントが原因で人が辞めている職場では、残った従業員も「次は自分かもしれない」という不安を抱えながら働くことになります。その結果、意見を言いにくくなったり、新しいことに挑戦しにくくなったりと、職場全体の力が落ちていくおそれもあります。
退職者の数だけを見ていると、こうした影響は見えにくいものです。経営者には、「辞めた人」だけでなく「残っている人が安心して働けているか」にも目を向けることが求められます。
声を上げにくい理由と、相談しやすい職場の条件
ハラスメントを受けていても、それを会社に相談する人ばかりではありません。声を上げにくい理由としては、次のようなものが考えられます。
- 相談したことが相手に知られるのではないかという不安
- 相談したことで、評価や配置で不利になるのではないかという不安
- 自分が受けていることがハラスメントに当たるのか分からない
- 誰に相談すればよいのか分からない
- 相談しても何も変わらないと思っている
相談しやすい職場に必要なこと
これらの不安を取り除くには、仕組みと教育の両方が必要です。
- 相談先がはっきりしている:社内の相談窓口の担当者や連絡方法が、全従業員に伝わっていること。
- 秘密が守られる:相談の内容が、本人の同意なく広がらないこと。相談を理由に不利益な扱いをしないことは、法律でも求められています。
- 「何がハラスメントか」を全員が知っている:受けている側が「これはおかしい」と気づけるように、従業員全員がコンプライアンスの基本を学んでいること。
- 管理職が正しく対応できる:部下の相談を受けた管理職が、否定せずに話を聞き、担当部署と連携できること。
特に3つ目は見落とされがちです。ハラスメントの研修は「加害者にならないため」のものと考えられがちですが、「自分が受けていることに気づくため」のものでもあります。
対面では言いにくいことを拾う
面談では言い出しにくいことも、定期的なチェックの回答や、ウェブ上の相談の入り口があれば、声を上げやすくなります。上司を通さずに相談できる経路を用意しておくことは、上司自身が問題の当事者である場合にも役立ちます。
経営者・人事ができる離職防止のハラスメント対策
ここからは、経営者と人事担当者が具体的に取り組めることを、4つに分けて説明します。
1. 全員でコンプライアンス学習を行う
パワハラ、セクハラ、カスハラ、就活セクハラなど、何がハラスメントやコンプライアンス違反に当たるのかを、全従業員が学ぶ機会をつくります。加害の予防になるだけでなく、被害に早く気づくことにもつながります。一度きりの研修ではなく、入社時や法改正のたびに学び直せる仕組みが理想です。
2. 管理職研修で「相談を受けたときの対応」を学ぶ
部下にとって最も身近な相談先は、上司です。管理職が相談を受けたときに「気にしすぎだ」と受け流してしまうと、部下は二度と相談しなくなります。管理職研修では、自分がハラスメントをしないことに加えて、相談を受けたときの初動も学んでもらう必要があります。
3. メンタルヘルスの状態を定期的に確かめる
ハラスメントや人間関係の悩みは、休職や退職の前に、ストレスの変化として表れることがあります。定期的にメンタルヘルスの状態を確かめ、高ストレスの兆候があれば、人事や産業医などが早めに声をかけられるようにしておくことが大切です。ただし、メンタルヘルスに関する情報は、閲覧できる人を限るなど、取り扱いに十分な配慮が必要です。
4. 労務管理とあわせて見る
長時間労働や特定の人への業務の偏りは、ストレスや職場の人間関係の悪化につながりやすくなります。勤怠のデータや欠勤の増加など、労務管理で得られる情報も、変化に気づくための手がかりになります。
これらの取り組みは、「問題が起きてから対応する」のではなく、「問題の兆しに早く気づく」ためのものです。本当の退職理由が会社に届かない以上、在籍中に声を拾う仕組みが離職防止の土台になります。
カスハラ・就活セクハラと採用への影響
2026年10月から、カスハラと就活セクハラへの対応も事業主の義務になりました。どちらも、離職や採用と深く関わるテーマです。
カスハラは「会社が守ってくれるか」が問われる
先ほどの労災データでも、顧客や取引先からの著しい迷惑行為は上位に入っていました。理不尽な要求を受けたときに、会社が従業員を守る姿勢を示せるかどうかは、「この会社で働き続けたいか」に直結します。対応の基準や引き継ぎのルールを決め、従業員に学んでもらうことが、離職防止にもつながります。
就活セクハラは「採用力」に直結する
就活セクハラは、入社前の求職者に対するハラスメントです。一度問題が起きれば、SNSなどを通じて広がり、採用活動全体に影響する可能性があります。面接官や採用担当者、OB・OG訪問に対応する社員に、求職者との接し方を学んでもらうことが大切です。
取り組みを社外に伝える
離職を防ぐことと、新しい人を採用することはつながっています。ハラスメント対策やメンタルヘルス対策に取り組んでいることを採用ページなどで伝えれば、求職者に安心感を与える材料になります。そのとき、受講率などの具体的な数字があれば、取り組みの説得力が増します。
フィラクスでできること
ハラスメント・コンプライアンス・メンタルヘルス対策クラウド「フィラクス(PHYLAX)」は、本記事で紹介した取り組みを一つの管理画面で進めるためのサービスです。
| 取り組み | フィラクスでできること |
|---|---|
| 全員でコンプライアンス学習 | パワハラ、セクハラ、カスハラ、就活セクハラなどの類型ごとに、テストと学習ができる |
| 管理職研修 | 学習とテストが「従業員向け」「管理職向け」に分かれている |
| メンタルヘルスの確認 | メンタルヘルスチェックで、高ストレスの兆候をアラートとして表示する |
| 声を拾う | 相談リクエストを一覧で確認できる。公益通報窓口ボタンも用意 |
| 社外への発信 | 受講率などをレポートとして出力できる |
そのほか、次のような特徴があります。
- 法務領域は弁護士、メンタルヘルス領域は精神科医が監修している
- すべての設問に解説が付き、回答ごとに生成AIが判断の理由を解説する
- 閲覧権限を「一般/管理者/運営」の3段階で分けられる
- 日本語を含む6言語で表示でき、外国籍の従業員にも対応できる
料金は登録人数に応じた月額制で、20名まで月額5万円(税別)からです。初期費用はかかりません。
なお、相談窓口の運用や、相談を受けたあとの個別の対応は、導入企業で行う必要があります。フィラクスは、声に気づくための入り口と、教育の仕組みを提供するサービスです。
よくある質問
Q. 退職面談で本当の理由を聞き出すには、どうすればよいですか?
退職が決まったあとでも、直属の上司ではなく人事担当者が面談する、答えた内容が評価や推薦状などに影響しないことを伝える、といった工夫はできます。ただ、退職の場面で本音を聞くのには限界があるため、在籍中から声を拾う仕組みを用意しておくほうが効果的です。
Q. メンタルヘルスの結果を、上司が見てもよいですか?
注意が必要です。メンタルヘルスに関する情報は、本人にとって特に扱いに配慮が必要な情報です。閲覧できる人を人事担当者や産業医などに限り、その範囲を従業員にも伝えておくことで、安心して正直に回答してもらいやすくなります。
Q. 少人数の会社でも、こうした取り組みは必要ですか?
必要です。パワハラ防止の措置義務は2022年4月から中小企業にも適用されています。また、少人数の会社ほど一人の退職が業務に与える影響は大きく、人間関係が固定されやすいため、社内では相談しにくくなることもあります。
Q. ハラスメント対策をすれば、離職は減りますか?
離職の理由はさまざまで、ハラスメント対策だけで離職が減るとは言い切れません。ただし、本当の退職理由で最も多いのが人間関係である以上、人間関係の問題に早く気づき、対応できる仕組みを持つことは、離職防止の重要な土台になると考えられます。
在籍中に気づきたい、変化のサイン
本当の理由を口にしないまま辞めていく人も、その前に何らかの変化を見せていることがあります。たとえば、次のような変化です。
- 遅刻や欠勤、当日の休みが増えた
- 会議で発言しなくなった、表情が暗くなった
- 特定の人とのやり取りを避けるようになった
- 以前はしなかったようなミスが増えた
こうした変化に気づいたときに、問い詰めるのではなく、「最近どうですか」と声をかけられる関係があるかどうかが大切です。ただし、変化に気づくことを上司一人の感覚に頼ると、上司自身が原因の場合には見過ごされます。メンタルヘルスチェックや労務管理のデータなど、人の目と仕組みの両方で見ることが望ましいといえます。
経営者が今日からできる3つのステップ
- 過去の退職を振り返る:ここ数年の退職者について、部署や上司、勤続年数に偏りがないかを確かめます。特定の部署に退職が集中していれば、そこに人間関係の問題がある可能性があります。
- 相談先を確かめる:社内の相談窓口が全従業員に伝わっているか、上司を通さずに相談できる経路があるかを確認します。
- 学びとチェックの仕組みを持つ:ハラスメントやコンプライアンスの学習と、メンタルヘルスの確認を、人事の負担を増やさずに続けられる方法を検討します。
まとめ
退職した人の半数以上は本当の理由を会社に伝えておらず、その理由で最も多いのは「人間関係」です。パワハラやカスハラは精神障害の労災の上位の原因でもあり、ハラスメント対策は離職防止と切り離せないテーマです。
経営者と人事ができるのは、全員でのコンプライアンス学習、管理職研修、メンタルヘルスの確認、そして労務管理とあわせた変化の把握を通じて、「辞める前に気づける」仕組みを持つことです。
フィラクスについては、公式サイトまたは24時間受付のお電話(070-2233-2540)でご案内しています。
