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ハラスメント研修、名簿だけで大丈夫?証拠になる記録の残し方

ハラスメント研修の受講者名簿と理解度テストの結果を照らし合わせる人事担当者

ハラスメント研修の記録として、受講者名簿だけを保管している会社は少なくありません。結論から言うと、名簿だけでは「研修をやった」ことの証拠としては不十分です。

名簿からわかるのは、「その日、その場に誰がいたか」までです。何を教えたのか、対象者全員が受けたのか、内容を理解していたのか。労働局の調査や従業員とのトラブルで問われるのは、むしろそちらです。

2026年10月1日からは、カスタマーハラスメント対策と、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)対策が企業の義務になり、研修の対象者も内容も広がります。この記事では、経営者・人事・総務の方に向けて、名簿を「証拠になる記録」に変える方法と、名簿とあわせて残すべき記録を整理します。

この記事の要点

  1. 名簿でわかるのは「出席者」だけ。教材、未受講者、理解度は名簿からはわからない
  2. 名簿は「対象者全員のリスト」にして、受講日時・確認方法・フォロー状況まで記録する
  3. 名簿・教材・理解度テスト・実施報告書を研修ごとにまとめ、少なくとも5年程度は保存する

名簿だけでは足りない理由

結論:名簿は「出席した人」を示す記録にすぎず、研修の内容、受講の漏れ、理解の程度を示すことができないからです。

受講者名簿でわかることと、わからないことを並べてみます。

名簿でわかること名簿だけではわからないこと
研修の日付研修で何を教えたか(方針、懲戒規定、相談窓口を説明したか)
出席した人の氏名本来受けるべき人のうち、誰が受けていないか
(署名があれば)本人が出席したこと最後まで参加したか、途中で退出していないか
内容を理解していたか
欠席者にその後どう対応したか

たとえば、ハラスメントの行為者とされた社員について「この人は研修を受けていましたか」と聞かれたとします。名簿に名前があれば出席はわかります。しかし、相手方から「動画を流していただけで、中身は形だけだった」と主張されたとき、名簿だけでは反論できません。名簿に名前がなかった場合は、さらに厳しくなります。欠席者をフォローしていた記録がなければ、「受けさせていなかった」と見られても仕方がありません。

なぜ研修の証拠が求められるのか

結論:労働局の調査、従業員とのトラブル、労災の場面で、会社がどんな防止策を取っていたかを客観的な資料で示す必要があるからです。

労働局の指導では「研修の実施」も見られている

都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)は、事業所の雇用管理の実態を把握し、ハラスメント防止措置が講じられているかを確認しています。厚生労働省の「令和7年度 雇用均等関係法令の施行状況」によると、労働施策総合推進法(パワーハラスメント関係)では、3,034事業所で実態把握が行われ、そのうち1,714事業所(56.5%)で何らかの違反が確認されて、2,525件の是正指導が行われました。

このうち「事業主の責務 研修の実施等」に関する是正指導は590件で、全体の23.4%でした。研修の実施は法律上は努力義務にあたる部分ですが、それでも指導の対象になっています。研修について説明を求められたときに、日付、対象者、内容を示せる資料が必要です。

トラブルや労災の場面で問われる「会社は何をしていたか」

ハラスメントで従業員が心身の不調をきたした場合、会社は安全配慮義務や使用者責任を問われることがあります。そのとき、会社が方針を周知していたか、研修で何がハラスメントに当たるかを教えていたか、相談窓口を知らせていたかが確認されます。

研修の記録は、会社が教育を怠っていなかったことを示す材料の一つです。記録があれば責任を免れるというものではありませんが、記録がなければ説明そのものができません。

対策に取り組む職場ほど、ハラスメントは少ない

厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」では、勤務先の取組状況によって、過去3年間にパワハラを受けた人の割合に大きな差が出ています。

勤務先の取組状況(労働者の評価)パワハラを受けた割合
積極的に取り組んでいる15.2%
取り組んでいる16.2%
あまり取り組んでいない35.1%

出典:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要」

記録をきちんと取っていれば、未受講者や理解の浅い部署が見えてきます。証拠のための記録は、職場を改善するためのデータにもなります。

2026年10月から、研修の対象が広がる

2026年10月1日施行の改正法で、カスハラ対策と就活セクハラ対策が義務化されます。どちらの指針でも、方針の周知・啓発の方法として研修が挙げられています。

カスハラでは、顧客や取引先に対応する従業員が対象になります。就活セクハラでは、採用担当だけでなく、インターンシップを受け入れる部署やOB・OG訪問に応じる社員も含まれます。「管理職向けに年1回」という運用のままでは、名簿に載るべき人が抜け落ちるおそれがあります。

証拠になる記録は「実施・受講・理解」の3層

結論:研修の証明は、「実施した」「全員が受けた」「理解した」の3層で考えると抜けがなくなります。名簿が担うのは、このうち「受講」の一部だけです。

層証明すること主な記録
① 実施いつ、どんな内容の研修を行ったか実施計画、教材・スライド、講師情報、案内文、実施報告書
② 受講対象者の誰が、いつ受けたか対象者リスト兼受講者名簿、出欠記録、eラーニングの受講ログ、未受講者へのフォロー記録
③ 理解内容を理解していたか理解度テストの結果、アンケート、確認書

名簿を丁寧に作っても、①と③がなければ証明としては片手落ちです。逆に言えば、名簿に教材と理解度テストを組み合わせるだけで、記録の説得力は大きく変わります。

名簿を「証拠になる名簿」に変える5つのポイント

結論:出席者だけを書く名簿ではなく、対象者全員を載せ、受講の日時と確認方法、未受講者への対応まで記録する名簿にします。

1. 出席者名簿ではなく「対象者リスト」から作る

最初に、その研修を受けるべき人の全員リストを作ります。部署、役職、雇用形態(正社員・契約社員・パート・派遣など)も入れておきます。そのうえで、一人ずつ受講の有無を記録します。こうすると、誰が受けていないかが一目でわかります。

2. 受講日時と、受講を確認した方法を書く

「出席」の丸印だけでなく、受講した日付と、どうやって確認したか(署名、入退室記録、オンラインの参加ログ、eラーニングの完了ログなど)を記録します。集合研修なら、開始時と終了時の2回確認すると途中退出も把握できます。

3. どの研修・どの教材を受けたかを紐づける

名簿の上部に、研修名、実施日、使用した教材の名称と版を書いておきます。教材を改訂したときに、誰が旧版で受け、誰が新版で受けたかを区別できます。

4. 理解度テストの結果を同じ表に並べる

テストの点数と合否を名簿と同じ表に記録しておくと、「受けたが理解が不十分な人」がすぐにわかります。基準に届かなかった人には再受講を案内し、その結果も残します。

5. 未受講者へのフォローを最後まで記録する

欠席者に再案内した日付、補講や後日受講の日付、最終的に受講を終えた日を記録します。休職中などで受講できない人は、その理由と復職後の受講予定を書いておきます。「放置していなかった」ことを示す記録になります。

名簿の列の例は次のとおりです。

氏名所属役職雇用形態受講日確認方法テスト点数合否未受講時の対応受講完了日

名簿とあわせて残すべき記録

結論:研修の前・当日・後の3つのタイミングで、名簿以外に次の記録を残します。

タイミング残す記録ポイント
研修前年間の研修計画対象者、テーマ、時期。カスハラ・就活セクハラのテーマが入っているか
案内文・受講の指示業務として受講を指示したことがわかる文面と送信日
教材(スライド、動画、配布資料)版と作成日を明記し、改訂後も旧版を保存
当日実施状況の記録会場写真、オンラインの参加ログ、録画など
研修後理解度テストの設問と回答点数だけでなく、どんな問題を出したかも残す
アンケート理解できた点、わかりにくかった点、職場の課題
実施報告書名簿やテスト結果を添付し、決裁を受ける

教材に、会社の方針、懲戒規定の内容、相談窓口の連絡先を説明するページが含まれているか確認してください。含まれていれば、研修の記録がそのまま「方針や相談窓口を周知した」記録にもなります。

研修の形式別、記録の残し方

結論:集合研修は「出席の確認」、オンライン研修は「参加の実態」、eラーニングは「受講ログと本人性」がポイントです。

形式残しやすい記録弱くなりやすい点と対策
集合研修署名入りの出席簿、会場写真、配布資料途中退出がわからない。開始時と終了時に出欠を取る
オンライン研修(ライブ)参加者ログ(入室・退室時刻)、録画カメラオフで「つないだだけ」になりやすい。終了後に理解度テストを課す
eラーニング受講開始・完了日時、視聴時間、テスト結果早送り・流し見、本人以外の受講。個人IDでのログインと、設問への回答を完了条件にする

eラーニングはログが自動で残り、名簿を手で作る手間もかかりません。ただし、動画を最後まで再生しただけでは理解したことの証明になりません。設問に答えて一定の点数に達したことを完了条件にしておくと、記録の説得力が上がります。

証拠として弱くなる典型パターン

結論:記録が「ある」ことと、「証明に使える」ことは別です。次のような状態は見直しが必要です。

  • 名簿はあるが、教材が残っていない:何を教えたかがわかりません。
  • 出席者しか載っていない:誰が受けていないかが見えません。
  • 未受講者を放置している:トラブルの当事者が未受講者だった場合、説明が難しくなります。
  • 毎年同じ内容を使い回している:法改正が反映されていないと、内容が不十分と見られるおそれがあります。
  • 理解度を確認していない:「形だけだった」という主張に反論できません。
  • 記録が部署や担当者ごとに散らばっている:担当者の異動や退職で所在がわからなくなります。
  • 管理職・役員が受講していない:研修全体の実効性が疑われます。

研修実施報告書に入れておきたい項目

研修ごとに1枚の実施報告書を作り、名簿やテスト結果を添付しておくと、後から説明するときに役立ちます。

  1. 研修名・テーマ
  2. 実施日時・形式(集合/オンライン/eラーニングの受講期間)
  3. 対象者の範囲と人数
  4. 受講者数・受講率、未受講者数
  5. 講師(社内・社外)と所属
  6. 研修内容の要旨(会社の方針、懲戒規定、相談窓口の説明を含むか)
  7. 使用した教材の名称と版
  8. 理解度テストの結果(平均点、基準未達の人数)
  9. アンケートで出た主な意見・職場の課題
  10. 未受講者・基準未達者へのフォロー予定
  11. 作成者・決裁者・決裁日

記録の保存期間と管理ルール

結論:研修記録の保存期間を直接定めた法律の規定はありません。トラブルが後から表面化することを考えて、少なくとも5年程度は保存するのが一つの目安です。

労働基準法には、労働者名簿や賃金台帳などの「労働関係に関する重要な書類」の保存義務がありますが、ハラスメント研修の記録について個別に期間を定めた規定はありません。なお、ここでいう「労働者名簿」は法定の従業員台帳のことで、研修の受講者名簿とは別物です。

一方、民法では、生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から5年で時効にかかるとされています。ハラスメントをめぐる請求が時間を置いて起こされることを考えると、少なくとも5年程度、できれば従業員の在籍中とその後一定期間は保存しておくほうが安全です。具体的な期間は、顧問弁護士や社会保険労務士と相談して社内規程に定めてください。

管理のルールとして、次の点を決めておきます。

  • 保管場所を一か所にする:年度・研修ごとのフォルダ、またはシステムで一元管理する
  • 改ざんできない形で残す:PDF化や、編集履歴が残るシステムを使う
  • 引き継げるようにする:保存場所とファイル名のルールを文書にしておく
  • 閲覧権限を絞る:名簿やテスト結果は個人情報なので、見られる人を人事・総務の担当者に限る

PHYLAXでできること

名簿、教材、テスト結果、未受講者の管理を手作業で行うと、ファイルが分かれ、年度をまたぐと追えなくなりがちです。

ハラスメント・コンプライアンス・メンタルヘルスの学習と診断をまとめて行えるクラウドサービス「PHYLAX(フィラクス)」では、従業員一人ひとりの受講状況と理解度スコアを管理画面で確認できます。設問に答えて解説を読む形式のため、「出席した」だけでなく「理解したか」まで記録に残ります。理解度は「要復習」「基礎」「実務」「十分」の4段階で表示し、部署ごとの傾向も把握できます。2026年10月に義務化されるカスハラ・就活セクハラを含むハラスメント類型に対応し、外国籍の従業員には母国語での表示にも対応しています。

なお、ツールで記録を残すことは、ハラスメント防止措置の一部を効率化するものです。方針の策定、相談窓口の運用、事後対応の体制づくりとあわせてご検討ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. ハラスメント研修の受講者名簿だけで、実施の証拠になりますか? A. 出席の記録にはなりますが、それだけでは不十分です。研修の内容を示す教材、対象者全員の受講状況、理解度テストの結果、未受講者へのフォロー記録をあわせて残すことで、証拠としての力が高まります。

Q2. 受講者名簿にはどんな項目を入れればよいですか? A. 氏名、所属、役職、雇用形態、受講日、確認方法(署名・ログなど)、テストの点数と合否、未受講時の対応、受講完了日を入れておくと、後から説明しやすくなります。

Q3. ハラスメント研修の実施は法律上の義務ですか? A. 労働施策総合推進法などでは、労働者の理解を深めるための研修の実施等が事業主の責務(努力義務)とされています。また、各指針では方針の周知・啓発の方法として研修が例示されています。厚生労働省の資料によると、令和7年度には「研修の実施等」に関する是正指導が590件ありました。

Q4. 研修記録は何年保存すればよいですか? A. 研修記録の保存期間を直接定めた法律の規定はありません。損害賠償請求の時効などを考慮し、少なくとも5年程度を目安に、顧問弁護士や社会保険労務士と相談して社内規程で定めることをおすすめします。

Q5. eラーニングの受講ログは証拠になりますか? A. 受講開始・完了の日時やテスト結果が個人ごとに残るため、記録として活用できます。本人のIDでログインしていること、設問への回答を完了条件にしていることなどが、記録の信頼性を高めます。

Q6. カスハラや就活セクハラの義務化で、名簿に載せる対象は変わりますか? A. 広がります。カスハラでは顧客や取引先に対応する従業員、就活セクハラでは採用担当、インターンシップの受け入れ部署、OB・OG訪問に応じる社員なども対象に含めて、受講状況を記録する必要があります。

まとめ

ハラスメント研修の記録は、名簿だけでは「研修をやった」ことの証拠として足りません。

  1. 名簿は出席者ではなく、対象者全員のリストとして作る
  2. 受講日時、確認方法、理解度、未受講者への対応まで記録する
  3. 教材と実施報告書を名簿と一緒に保管し、少なくとも5年程度は残す

2026年10月のカスハラ・就活セクハラ対策の義務化で、研修の対象者は増えます。いま保管している名簿を開いて、「誰が受けていないか」「何を教えたか」がすぐに答えられるかを確かめてみてください。答えられなければ、記録の残し方を見直すタイミングです。

参考資料

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